みなさん、こんにちは。
世の中は、新型コロナ一色ですが、法律家としては、来月1日から、新しい民法(以下「改正民法」といいます。)が施行されますので、この改正民法について書きたいと思います。
民法は、私法の一般法で、重要な法律です。
司法試験の受験科目でもあり、とにかく条文数が多いです。
私が、司法試験受験生だったとき、条文数は1044条でしたが、今は、1050条に増えています。
条文数が多いことから、当然、勉強しなければならない量も多いので、
司法試験の世界では、「民法を制する者は、司法試験を制する。」と言われていました。
今回の改正は、大改正ですので、いろいろなところが改正されています。
そこで、これから重要な部分について書いていきたいと思います。
今回は、請負です。
私が最初に勉強したのが請負でした。
請負契約は、新築住宅を建設会社に作ってもらうときにする契約と考えると、イメージしやすいと思います。
1 瑕疵担保責任
請負で一番の改正点は、これです。
まず、「瑕疵」とはいわなくなり、「契約不適合」というようになりました。条文には「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない」と規定されています。
また、改正前の民法(以下「旧民法」といいます。)は、請負人の担保責任は、目的物を引き渡した時から1年でしたが、改正民法は、契約不適合を知った時から1年以内に請負人に通知しないと追及できないことになりました。
これは注文者に有利になったといえます。
だだ、注文者が、契約不適合を知らなくても、引き渡しから10年経過すれば、担保責任の追及はできなくなります。
また、旧民法は、建物その他の土地の工作物や地盤の瑕疵は、引き渡しから5年間、石造、土造、れんが造、コンクリート造、金属造について10年間、請負人が担保責任を負うことになっていましたが、これは無くなりました。
2 建物の解除
旧民法では、建物その他の土地の工作物については、請負契約を解除できないことになっていましたが、今回の改正で解除できるようになりました。
3 一部報酬請求
請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じた報酬を得られよう条文が規定されました。
これは、最高裁判例の判例法理を明文化したものです。
請負人が、途中まで仕事したのに、全く報酬をもらえないのは酷ですから、当然ですよね。
だだ、一部報酬請求できるのは、@注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき、A請負が仕事の完成前に解除されたとき、と規定されています。
以上、請負の改正点について概要を書きました。
前回このブログを更新したのは、昨年末でしたが、
新型コロナウィルスで、まさかこんな事態になるとは…、予想だにしませんでした。
よりによって東京オリンピックの年に。
次回のブログ更新のときは、世の中はどうなっているのでしょうか。
では、また。
2020年04月30日
民法改正2
みなさん、こんにちは。
前回の更新から、約1か月半がたちました。
この間、ホントいろいろありましたね。
東京オリンピックは1年延期されましたし、緊急事態宣言もだされました。
人生でこんな事もあるんだなぁと驚きの連続です。
家に帰ると、毎日、寝るまでニュースをみる日々が続いています。
岩手県は、現時点でも、感染者0とのことですが、緊急事態宣言の対象になりました。
自宅近くで、「当面の間、休業します。」といった張り紙をしている飲食店を複数みかけました。
当事務所は、マスク、消毒、換気、距離に気をつけて営業中です。
さて、今回も、民法改正についてです。
2回目は、民法95条の錯誤について書きます。
錯誤は、意思表示の誤りのことであり、表示の錯誤、内容の錯誤および動機の錯誤の3つあります。
表示の錯誤は、例えば、税込110円と言うべきところ、税込み108円と言ってしまったという錯誤。
内容の錯誤は、よく出てくる例は、ドルとポンドを同価値と考えて1ドルと書くところを1ポンドと書いてしまったという錯誤。
動機の錯誤は、例えば、近くに地下鉄の駅ができるので値上がりするだろうと思って土地を買ったが、地下鉄の駅はできず値上がりしなかったという錯誤。
改正点は、以下のとおりです。
1 無効から取消しに
旧民法で錯誤は無効と規定されていましたが、条文上「取り消すことができる」とされました。
従来から、錯誤無効は、相対的無効とか取消的無効と言われていましたので、条文上、はっきりと「取り消し」とされたのです。
2 動機の錯誤の明文化
旧民法は、動機の錯誤の規定がありませんでしたが、新法では、「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されたときに限り」動機の錯誤の主張が可能と規定されました。
従来の判例法理でも、動機が表示されて法律行為の内容となったことを要件として、動機の錯誤主張を認めていました。
動機の錯誤は、錯誤のなかで圧倒的に多いので、明文化された意義は大きいですね。
3 重大な過失があっても錯誤主張ができる場合
表意者に重大な過失があると、取消しの主張はできなくなります。
この点は、改正はありませんが、例外規定が新設されました。
つまり、
@相手方が、表意者の錯誤について悪意又は重過失がある場合
A相手方が、表意者と同一の錯誤に陥っていた場合
この@A場合は、重大な過失のある表意者も錯誤の主張が許されることになったのです。
4 第三者保護規定の新設
錯誤による意思表示を前提として新たな法律関係に入った善意無過失の第三者を保護されることになりました。
条文上は「意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者には対抗することができない。」と規定されています。
「対抗する」とは「主張する」といった意味です。
取引の安全に配慮したんですね。
錯誤については、以上です。
次回も民法改正について書きたいと思います。
感染予防、頑張りましょう。
では、また。
前回の更新から、約1か月半がたちました。
この間、ホントいろいろありましたね。
東京オリンピックは1年延期されましたし、緊急事態宣言もだされました。
人生でこんな事もあるんだなぁと驚きの連続です。
家に帰ると、毎日、寝るまでニュースをみる日々が続いています。
岩手県は、現時点でも、感染者0とのことですが、緊急事態宣言の対象になりました。
自宅近くで、「当面の間、休業します。」といった張り紙をしている飲食店を複数みかけました。
当事務所は、マスク、消毒、換気、距離に気をつけて営業中です。
さて、今回も、民法改正についてです。
2回目は、民法95条の錯誤について書きます。
錯誤は、意思表示の誤りのことであり、表示の錯誤、内容の錯誤および動機の錯誤の3つあります。
表示の錯誤は、例えば、税込110円と言うべきところ、税込み108円と言ってしまったという錯誤。
内容の錯誤は、よく出てくる例は、ドルとポンドを同価値と考えて1ドルと書くところを1ポンドと書いてしまったという錯誤。
動機の錯誤は、例えば、近くに地下鉄の駅ができるので値上がりするだろうと思って土地を買ったが、地下鉄の駅はできず値上がりしなかったという錯誤。
改正点は、以下のとおりです。
1 無効から取消しに
旧民法で錯誤は無効と規定されていましたが、条文上「取り消すことができる」とされました。
従来から、錯誤無効は、相対的無効とか取消的無効と言われていましたので、条文上、はっきりと「取り消し」とされたのです。
2 動機の錯誤の明文化
旧民法は、動機の錯誤の規定がありませんでしたが、新法では、「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されたときに限り」動機の錯誤の主張が可能と規定されました。
従来の判例法理でも、動機が表示されて法律行為の内容となったことを要件として、動機の錯誤主張を認めていました。
動機の錯誤は、錯誤のなかで圧倒的に多いので、明文化された意義は大きいですね。
3 重大な過失があっても錯誤主張ができる場合
表意者に重大な過失があると、取消しの主張はできなくなります。
この点は、改正はありませんが、例外規定が新設されました。
つまり、
@相手方が、表意者の錯誤について悪意又は重過失がある場合
A相手方が、表意者と同一の錯誤に陥っていた場合
この@A場合は、重大な過失のある表意者も錯誤の主張が許されることになったのです。
4 第三者保護規定の新設
錯誤による意思表示を前提として新たな法律関係に入った善意無過失の第三者を保護されることになりました。
条文上は「意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者には対抗することができない。」と規定されています。
「対抗する」とは「主張する」といった意味です。
取引の安全に配慮したんですね。
錯誤については、以上です。
次回も民法改正について書きたいと思います。
感染予防、頑張りましょう。
では、また。
posted by ヒラク総合法律事務所 at 20:54| 法律論
2020年05月29日
民法改正3
みなさん、こんにちは。
緊急事態宣言は全国で解除されましたね。
岩手県は、感染者0のまま解除されました。
それも影響しているのかマスクは、まだ届いていません。
さて、今回は民法改正のうち、
併存的債務引受と免責的債務引受
を取り上げます。
併存的債務引受と免責的債務引受については、司法試験受験生のときに、勉強しましたが、
旧民法には、規定がありませんでした。
民法には契約自由の原則がありますので、どんな契約でも結べるのが原則ですし、学説、裁判例で認められていたのです。
そこで、早く民法で規定すればいいのにと思っていたのですが、今回、明文化されました。
まず、併存的債務引受についてです。
条文は470条1項で、
「併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。」
と規定されています。
私が弁護士実務でみたのは、債務整理のときで、自動車ローンで使われていました。
契約書をみせていただくと、依頼者の奥さんが引受人になっていました。
その方は、小規模個人再生手続をされたのですが、お陰で、自動車を引き揚げられなくてすんだようです。
ところで、併存的債務引受は、連帯保証とよく似ています。
引受人は保証人的な立場なんですね。
保証は、債権者と保証人との契約で成立しますので、
併存的債務引受も、債権者と引受人との契約で成立します。
よって、債務者の同意は必要ありません。
よく、軽い気持ちで保証人になると酷い目にあうと言われますが、
併存的債務引受も、連帯保証とよく似ている以上、その責任は重いですので、引受人になるかどうかは慎重に検討してください。
ちなみに、債権者は、お金を貸している人、債務者は、お金を借りている人と考えると分かりやすいです。
次に、免責的債務引受についてです。
条文は472条で、「免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。」
と規定されています。
この「債務者は自己の債務を免れる。」が併存的債務引受との大きな違いです。
つまり、免責的債務引受は、債権譲渡の逆バージョンなのです。
債権譲渡は、債権者が交代しますが、免責的債務引受は、債務者が交代します。
今まで借金を背負っている人が、借金から解放されるんですね。
私が弁護士実務で見たのは、不動産の所有権移転のときに使われていました。
つまり、住宅ローンを背負っている人が、住宅の所有権を移転させるとともに、ローンつまり借金も移転させていました。
住宅ローンの場合、債権者は金融機関ですから、ローンの残額を払ってもらえるかは重要ですので、金融機関は、誰が引受人になるかに大変関心があります。
ですから、経済力がある人が引受人にならないと、金融機関としては、なかなか免責的債務引受を認めにくいと思います。
住宅ローンが引受人に移転すると、住宅の所有権が移転することが472条の4第1項本文に規定されています。
だだ条文上、「移すことができる」と規定されているので、移転しなくてもいいんですね。
実務では、当然のように移転させるでしょうけど。
以上、併存的債務引受と免責的債務引受について、簡単にみてきましたが、実務で使われている契約が、民法上明文化された意義は大きいと思います。
どんな契約かはっきりしましたからね。
なお、新民法でも規定されませんでしたが、債務引受は、債権者、債務者、引受人の3人で契約することもできます。
特に、免責的債務引受では、債務者が交代するという重大な効果を伴いますから、3人で契約したほうがいいのではないでしょうか。
今後も、引き続き民法改正について書きたいと思います。
では、また。
緊急事態宣言は全国で解除されましたね。
岩手県は、感染者0のまま解除されました。
それも影響しているのかマスクは、まだ届いていません。
さて、今回は民法改正のうち、
併存的債務引受と免責的債務引受
を取り上げます。
併存的債務引受と免責的債務引受については、司法試験受験生のときに、勉強しましたが、
旧民法には、規定がありませんでした。
民法には契約自由の原則がありますので、どんな契約でも結べるのが原則ですし、学説、裁判例で認められていたのです。
そこで、早く民法で規定すればいいのにと思っていたのですが、今回、明文化されました。
まず、併存的債務引受についてです。
条文は470条1項で、
「併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。」
と規定されています。
私が弁護士実務でみたのは、債務整理のときで、自動車ローンで使われていました。
契約書をみせていただくと、依頼者の奥さんが引受人になっていました。
その方は、小規模個人再生手続をされたのですが、お陰で、自動車を引き揚げられなくてすんだようです。
ところで、併存的債務引受は、連帯保証とよく似ています。
引受人は保証人的な立場なんですね。
保証は、債権者と保証人との契約で成立しますので、
併存的債務引受も、債権者と引受人との契約で成立します。
よって、債務者の同意は必要ありません。
よく、軽い気持ちで保証人になると酷い目にあうと言われますが、
併存的債務引受も、連帯保証とよく似ている以上、その責任は重いですので、引受人になるかどうかは慎重に検討してください。
ちなみに、債権者は、お金を貸している人、債務者は、お金を借りている人と考えると分かりやすいです。
次に、免責的債務引受についてです。
条文は472条で、「免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。」
と規定されています。
この「債務者は自己の債務を免れる。」が併存的債務引受との大きな違いです。
つまり、免責的債務引受は、債権譲渡の逆バージョンなのです。
債権譲渡は、債権者が交代しますが、免責的債務引受は、債務者が交代します。
今まで借金を背負っている人が、借金から解放されるんですね。
私が弁護士実務で見たのは、不動産の所有権移転のときに使われていました。
つまり、住宅ローンを背負っている人が、住宅の所有権を移転させるとともに、ローンつまり借金も移転させていました。
住宅ローンの場合、債権者は金融機関ですから、ローンの残額を払ってもらえるかは重要ですので、金融機関は、誰が引受人になるかに大変関心があります。
ですから、経済力がある人が引受人にならないと、金融機関としては、なかなか免責的債務引受を認めにくいと思います。
住宅ローンが引受人に移転すると、住宅の所有権が移転することが472条の4第1項本文に規定されています。
だだ条文上、「移すことができる」と規定されているので、移転しなくてもいいんですね。
実務では、当然のように移転させるでしょうけど。
以上、併存的債務引受と免責的債務引受について、簡単にみてきましたが、実務で使われている契約が、民法上明文化された意義は大きいと思います。
どんな契約かはっきりしましたからね。
なお、新民法でも規定されませんでしたが、債務引受は、債権者、債務者、引受人の3人で契約することもできます。
特に、免責的債務引受では、債務者が交代するという重大な効果を伴いますから、3人で契約したほうがいいのではないでしょうか。
今後も、引き続き民法改正について書きたいと思います。
では、また。
posted by ヒラク総合法律事務所 at 10:11| 法律論